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Tea-break・・・矢部院長からのちょっといい話

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○ 2025年6月 生物界の音についての本

 ほんの2ヶ月前には桜の開花予想をしていましたのに今は花の種類もガラッと変わっています。 花が終わった桜の木は青々とした葉がしげっています。
今咲いている花は、花の色もアジサイやハナショウブなど青みがかったものが増え、どこか涼しげです。季節は春から夏へ移り変わりつつあります。

 今回、私は「聴覚」をいろいろな角度からみた本を読みました。タイトルは「生物界は騒がしい 音と共に進化した、生き物とヒトの秘められた営み  D.G.ハスケル著」です。
最初からビックリしたのはバクテリアも音を出しているということでした。「無音の研究室に置かれたマイクは、枯草菌コロニーの出す音を拾うことができる。」バクテリアのように目に見えないほど小さいものでも音を出すことができるということは、地球上に生きている生物は全て音を出すことができるということです。そんな音、聞いたことないというのは、私たちが音を聞くことを初めからあきらめていて聞いていないだけだったのです。

 1956年にフランス映画制作者のジャック=イヴ・クストーが発表した海のドキュメンタリー映画のタイトルは「沈黙の世界」。「だが海は沈黙していない。」と作者は言います。「人間の耳は空気中に適応しており、水中にはなじまない。水に沈んでしまうと、わたしたちにはきわめて大きな音しか聞こえない。」そのとおりです。海の中も地上と同じようにやかましいほどの音にあふれています。一見静かな世界でも聞く方法をくふうすればいろいろと音を聞くことができます。ですから最初にご紹介したバクテリアの音にしろ海の中の音にしろ、この世の中は音であふれかえっているんだということに気づかされました。ふだんは聞こえていなくてもそれは私が聞く耳をもっていないだけで、みんなそれぞれがこの瞬間も音を発しているのです。自分が感じていることが全てではないということに気づかされ、はじめからノックアウトされました。

 作者が生物がたくさんいる場としてあげているのがアマゾンの熱帯雨林です。うるさい環境での耳のはたらきにサラッとふれているのですが「耳は必要な音を探し当て、だぶつく音を切り落としていく。」これこそが補聴器の騒音防止機能です。「ざわついた中で人の声に耳を傾けている人間の脳をスキャンすると、それがかなり大変な作業であることがわかる。抑制や注意など多岐にわたる機能をつかさどる脳の部位が、静かな場所で話を聞いている時にはあまり働かず、騒がしい場所で聞こうとする時に活性化していたのだ。」今私たちはこの機能を補聴器にもつけようとして苦労しています。

 最後にもう1つ。ヴァイオリンをひく際、私はヴァイオリンをひいたことがないのでわからないのですが、ヴァイオリンを首元におしこみ下顎の骨に当てると聴衆とは異なる聴覚体験がヴァイオリン奏者はできるそうです。ということは聴衆とヴァイオリン奏者は異なる音を聞いているということでしょうか。

 さっと見ただけでもとても興味深い内容が書かれていることがわかるでしょう。「聴力」と聞くと「聞く」だけでそれ以上でもそれ以下でもないと感じる方も多いと思いますが、そんなことはなくて意外に奥深いのです。特に人間の進化と関係している部分はとても興味深いのです。皆さんも興味がありましたら一度この本を手にとってみて下さい。

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