Tea-break・・・矢部院長からのちょっといい話
> tea-breakバックナンバー
○ 2025年2月 2025年花粉情報・治療法と「鼻うがい」
2025年になり、もう1ヶ月がすぎました。1日1日を大切に生きないと1年はまたあっという間に終わってしまいます。用心用心です。
季節は1年でもっとも寒い季節となりました。でも注意して見てみると春の気配もそこかしこに見うけられます。たとえば近くの京橋に「正月桜」という桜の木があるのですが、これが何と満開です。今の季節ではかなり珍しいのでしょう。たくさんのかたが写真をとっておられます。
でも春が来る前に忘れてならないのが花粉症です。花粉症を乗り越えないと春は来ませんよ。 第82回関東耳鼻咽喉科アレルギー懇話会で、NPO花粉情報協会の佐藤紀男先生と気象予報士の村山貢司先生がお話されましたがそれらをまとめますとだいたい次のようになります。
昨年までと比べ今年は飛散開始時期が早くなる。つまり花粉症の始まりが早くなる。今までは東京都心で大体2月のバレンタインデーのころでしたが、ことしはそれより前の2月上旬〜中旬前半。 花粉が飛ぶ量はことしは昨年2024年とほぼ同じで多いでしょう。(多い年の翌年は少ないということは今のところないようです)
そして飛び始めると急に増えるとのことでした。
10個/㎠以上になるのに 3日
30個/㎠以上になるのに 1週間
50個/㎠以上になるのに 7〜8日
100/㎠個以上になるのに 10日
■スギ・ヒノキ花粉症の治療
アレルギー性鼻炎の治療として、次の5点があげられます。
(1)セルフケア(原因抗原であるスギ花粉をよせつけない)
(2)薬物療法
(3)手術療法
(4)アレルゲン免疫療法
(5)分子標的治療薬
このうち、だれでも比較的手軽に実行できることとして、(1)と(2)についてまずお話しいたします。
(1)セルフケア(スギ花粉の回避)
外出時
①花粉情報に注意する。
②飛散の多い時の外出を控える。外出時にマスク、メガネを使う。
③表面がけばだった毛織物などのコートの使用は避ける。
帰宅時
④帰宅時、衣服や髪をよく払ってから入室する。洗顔、うがいをし、鼻をかむ。
在宅時
⑤飛散の多い時は窓、戸を閉めておく。換気時の窓は小さく開け、換気は短時間にとどめる。
⑥飛散の多い時のふとんや洗濯物の外干しは避ける。
⑦掃除を励行する。特に窓際を念入りに掃除する。
(鼻アレルギー診療ガイドライン2013)
これらは治療の第一歩で患者さんのみができることです。
そして最近行っている方が時々いらっしゃるのが「鼻うがい」です。
鼻うがいについては後で述べます。
(2)薬物治療
薬物を使う治療で、まず皆さんが思いうかべる治療法だと思います。
最初に「初期療法」と呼ばれる薬の使い方をおすすめします。
花粉症の初期療法は花粉が飛びはじめる前から花粉症の薬(内服薬や点鼻薬)を使いはじめるという治療法です。たとえば、東京では2月上旬から始めることが望まれます。症状が出ていないのに薬を使うことに抵抗を感じる方もいらっしゃると思いますが、次のような効果(いいこと)があります。
①花粉症の症状が始まるのが遅くなる。
②花粉症の症状が軽くなる。
③薬の量や使用回数を減らすことができる。
花粉症などのアレルギー性疾患は症状が悪化する(重くなる)と薬が効きづらくなります。しかし、症状が軽いうちに薬を使いはじめると、花粉の飛散量が多くなった時期でも症状をコントロールしやすく、その結果、そのシーズンの症状を軽くすることができます。
ここで花粉症の薬をのむときの注意です。
①花粉が飛ぶ量は雨や雪などの自然条件で減少する時期もありますが、薬の使用は途中で中断せずに、花粉飛散が少なくなる時期(スギ→4月後半、ヒノキ→5月中旬)まで継続することが望ましい。
②薬によっては眠けをもよおすことがあるため、車の運転、精密な仕事、高い所での作業などには注意して下さい。
③アルコールといっしょに内服しない。
④眠気やだるさが強かったり、他にからだの異常を感じたときは、主治医に知らせて下さい。
(3)手術療法
くしゃみや鼻みずという症状は比較的、薬による治療が有効ですが、鼻づまりにはききづらいといわれています。手術療法は鼻づまりの強い人に、鼻閉の改善を目的におこなうことが多いです。手術の方法には次にあげるようなものがあります。
○アルゴンプラスマ手術
○電気凝固法
○レーザー手術
○その他
(4)アレルゲン免疫療法
アレルゲン免疫療法はこのコラムでも何度かとりあげましたが、
①皮下注射による方法
②舌下免疫療法
の2つがあり、②スギの舌下免疫療法が平成26年10月から新たにできるようになりました。
実際問題として、注射をうけるために毎週医療機関を受診するということは大変な手間と時間がかかるために、だれでもできるという方法ではありませんでした。その点、舌下免疫療法は、1ヶ月に一度の受診ですみます。痛い注射も受けずに済みます。大変おすすめなのですが、1点だけ注意してください。それは始める時期です。花粉が飛び始めてからはできませんので、今、現在は無理です。
御希望の方は、申し訳ないのですが、来年の花粉症シーズンのためにことしの6月〜12月に来院してください。ことしも1月〜5月は始めることができません。
花粉症シーズン中は、日常生活での生活習慣も大切です。花粉症の症状を悪化させる花粉以外の要因には次のようなものがあります。
①ストレスの多い生活。
②不規則な生活リズム。睡眠不足。
③高たんぱく質や高脂肪の食生活。
④排ガス、大気汚染→排気ガスなどで汚染された大気中の微粒子が免疫反応をおこす抗体を産生しやすくし、花粉症の発症を促進する。
⑤アルコール→鼻閉悪化
(5)分子標的治療薬
これは(2)薬物療法の一部と考えてもよいのですが、今までの薬物療法とは考えてもよいのですが、今までの薬物療法とはかなり考え方が異なるため、ここに記載しました。
この分子標的治療薬というのは、スギ花粉症の患者様すべてが対象とはならないという点にご注意ください。スギの花粉症の患者様でかなり重症の方対象です。投与方法は皮下注射です。1ヶ月に1〜2回程注射します。
まずこの「分子標的治療薬」という聞きなれないことばですが、たとえばがん治療薬のオプジーボは1度くらい聞かれたこともあると思います。2018年本庶佑氏がノーベル医学・生理学賞を受賞したことをきっかけに脚光を浴びました。これがスギ花粉症に応用されたものがゾレアです。ゾレアはIgEというスギ花粉症をひきおこすおおもとに対する抗体薬です。スギ花粉症患者様のうち、通常の抗アレルギー薬を用いても症状がおさまらない方対象となっております。ですからスギ花粉症の患者様が診療所にもし、はじめて来院されてもすぐにこのくすりを使うわけにはいきません。まず(少なくとも1週間は)通常の抗アレルギー薬を使っていただきます。それで効果が十分でない場合、ゾレアを使う可能性もでてきます。ここで血液検査を行い、スギに対するIgEが6段階評価で3(+)以上あることが必要です。さらに、血液中のIgEの量と体重から注射する量がわり出されます。たいていの患者様は月に1回の注射です。血液中のIgEの量と体重によっては月に2回の注射の方もいらっしゃいます。
そしてもうひとつの問題点は、この薬が非常に高価であるということです。月に一度の注射で保険の自己負担3割の方(大多数の方です)でひと月に自己負担が約15,000円〜です。これが2〜3ヶ月(2月〜4月)つづきます。
つまり、通常の内服薬だけでは症状がおさまらないほどのスギ花粉症の患者様でひと月にさらに15,000円〜の自己負担を2〜3ヶ月払ってもかまわないという方がこの薬を使うことになります。たとえばひと月15,000円〜払えば1回の注射で1ヶ月楽にすごせると考える方もいらっしゃると思いますが、通常の内服薬は毎日きちんと内服してでのお話です。
花粉症の治療の選択肢が一つ増えたということは大変良いことだと思いますが、このゾレアという薬は花粉症の方みんながつかえるというくすりではありません。大変重症である、高価である等のハードルをこえて使うことができるくすりです。
花粉症シーズン中は、日常生活での生活習慣も大切です。花粉症の症状を悪化させる花粉以外の要因には次のようなものがあります。
①ストレスの多い生活。
②不規則な生活リズム。睡眠不足。
③高たんぱく質や高脂肪の食生活。
④排ガス、大気汚染→排気ガスなどで汚染された大気中の微粒子が免疫反応をおこす抗体を産生しやすくし、花粉症の発症を促進する。
⑤アルコール→鼻閉悪化
ここで最後に「鼻うがい」について少し述べたいと思います。 花粉症の原因物質であるスギやヒノキの花粉を鼻うがいで洗い流せばかなりスッキリします。
「鼻うがい」とは他に鼻洗浄や鼻洗と呼ばれることもある鼻のセルフケアです。
口でやるうがいは口から水をのどに入れてガラガラと行いますが、鼻うがいは片方の鼻から洗浄液を入れて、これを反対側の鼻や口から出して鼻の奥を洗い流します。 では何を洗い流すのでしょうか。次のようないろいろなものがあります。
- 細菌
- ウィルス
- アレルギー性鼻炎の原因物質 スギやヒノキの花粉、ダニやハウスダストなど
- 後鼻漏(鼻汁)
後鼻漏は副鼻腔炎や鼻炎の鼻汁がのどの方へ(後方へ)回ったものです。これは鼻をかんでも鼻の前方へはなかなか出てきません。 後鼻漏のある部位(鼻の後方)が鼻の前方からとても離れているためです。そのままにしておけばのどへ回ってしまいますが、鼻うがいをすればのどへ回って痰になる前に反対の鼻や口から前に出すこともできます。
鼻うがいと簡単に言ってもコツがいくつかあります。
- 鼻洗浄器具と洗浄液の素を用意する。
コップ等を使って鼻うがいをする方もいらっしゃいますが、それは慣れてから。 慣れないうちは市販の鼻洗浄器具と洗浄液の素を使います。
- 下をむいて洗浄液を入れた鼻洗浄器具を片鼻入口に軽くあてる。
上を向くと洗浄液が耳に流れてしまい中耳炎になることがあります。
- 鼻うがい中は「あー」とか「えー」と声を出しながら洗浄液を鼻の中に流しこみます。声を出すのは洗浄液がのどに流れこんでむせることのないためです。のどに流れこむと地上にいるのに溺れてしまいます。
- 鼻うがいには必ず洗浄液の素や生理食塩水を使います。 浸透圧の差があると鼻内が痛く感じます。プールで水が鼻に入ってしまった感じです。口から行ううがいは食道水でもできますが鼻うがいは洗浄液の素や生理食塩水を使って下さい。 鼻うがいに慣れてきましたら、御自分で鼻うがい液(生理食塩水)を作ることもできます。作り方は以下の通りです。大体1回の鼻うがいに使う量は200〜300mlです。
○鼻うがい液(生理食塩水)300ml分の作り方
@300mlの水道水や真水を沸騰させる。
Aこれを体温に近い温度(35〜37℃)まで下げる。
B食塩2.7g(0.9%)を加えてしっかり溶かす。
できれば鼻うがいの度に作った方が衛生的です。
- 鼻うがい後に鼻をかむ時はやさしくかんで下さい。強くかむと中耳炎になってしまうこともあります。
鼻うがいは1日1〜2回行なって下さい。そしていつやるかですが、
おすすめは、
・夜の就寝前
・朝の起床後
です。
口で行うガラガラうがいと比べるとめんどくさいように思うかもしれません。でも毎回少しづつならしてゆくときっとできるようになります。 うまくできた時の鼻〜のどの爽快感はかなりのものです。

鼻うがいは花粉症などのアレルギー性鼻炎にももちろん有効です。1日に1〜2回でかまいませんので興味のある方は一度ためしてみて下さい。
▲ページトップへ
|