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Tea-break・・・矢部院長からのちょっといい話

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○ 2021年10月 嗅覚障害について

 都心でも、今の季節になるとキンモクセイの香りがあちこちからただよってきます。しかしことしは香り始めが例年よりだいぶ早かったようです。東京ではもうキンモクセイの黄色い小さい花が散ってしまい大変残念です。皆様いかがおすごしでしょうか。

 今回は嗅覚障害についてです。「きゅうかくしょうがい」と読みます。嗅覚障害というのは、嗅覚(におい)が弱い、あるいは全くにおわないまたは別のにおいがするなど嗅覚に異常があることです。

 ここでは、まず一般の嗅覚障害のお話をしてから新型コロナウィルスと嗅覚障害の関係についてお話をします。
嗅覚が低下すると毎日の生活はどうなるでしょうか。
 (1)食品の腐敗臭に気がつかない → 食中毒のおそれ。
 (2)ガス漏れに気づかない → ガス中毒のおそれ。
 (3)食事がまずい → 塩分・糖分過多、栄養不足。
 (4)煙を感知できない → 火災、鍋をこがしてしまう。
どれもとても深刻な問題です。でも何となくやりすごしていませんか?

においは鼻でかぎます。鼻のどこでかぐかというと、鼻の上の方にある嗅細胞(嗅神経細胞)でかぎます。においの分子は鼻の中に伝わり、さらに脳内へ伝わってゆきます。この伝わってゆく経路のどこが障害されてもにおいません。ですから嗅覚障害は障害されている部位によって、次のように3つに分類されます。

  1. 気導性嗅覚障害
    においの分子が嗅細胞に物理的に到達できない。たとえば副鼻腔炎が原因の鼻ポリープ(鼻茸)やアレルギー性鼻炎が原因の鼻づまりや鼻中隔弯曲症が原因でにおいの分子が嗅細胞にとどく前にブロックされてしまいます。嗅細胞は正常です。
  2. 嗅神経性嗅覚障害
    嗅神経自身が傷ついてにおいを感じなくなります。感冒の原因となるウィルス感染で嗅神経が障害されたり、頭部外傷(骨折や強い脳しんとう)で嗅神経が切れてしまったりです。
  3. 中枢性嗅覚障害
    頭部外傷、脳腫瘍、脳梗塞、アルツハイマー病、パーキンソン病などで脳が障害された時です。たとえば、アルツハイマー型認知症では、病気のごく初期に嗅覚障害が現れるため、認知症の早期発見に役立つといわれています。

治要はまずそれぞれの原因となった疾患を治療します。たとえば気導性嗅覚障害であれば副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などの治療をします。中枢性嗅覚障害でもそれぞれの原因疾患の治療をします。感冒後や鼻炎などで嗅神経が障害された嗅神経性嗅覚障害の場合はビタミン剤、漢方薬の服用、ステロイドホルモン剤の点鼻や内服などです。ですから嗅覚障害の原因をつきとめることはとても大切です。

  そして自分でできる治療法として嗅覚トレーニングというものがあります。これはドイツで提唱されているもので1日2回(朝・夕)レモン、ユーカリ、バラ、クローブのにおいのエキスを数十秒ずつ嗅ぐというものです。クローブが出てくるところがいかにもドイツだなと思いますが毎日嗅ぐことによって嗅細胞の再生をうながすと考えられています。この4つでなくとも、意識して、鼻を近づけてにおいをかいでみて下さい。たとえばバラの花はこういうにおいがするはずだと考えながらかいでみます。脳に覚えさせるような感じです。これをいろいろなものでやります。良いにおいだけでなく、ゴミのにおいやガスのにおいもかぎます。これを毎日続けてにおいのライブラリーをふやしてみて下さい。

■新型コロナウィルスと嗅覚障害

 新型コロナウィルス感染症になると大ざっぱに言って約半数の人が嗅覚障害、又は味覚障害になるといわれています。鼻汁や鼻づまりもないのに突然においがしなくなったら、新型コロナウィルス感染症の可能性もでてきますので、直接医療機関を受診せず、まず電話で問い合わせて下さい。当院では、受診時間を調整します。そしてPCR検査を受けていただきます。(当院でもPCR検査はできます。)
だいたい診療の流れはこのようなものです。

 新型コロナウィルス感染症になるとなぜ嗅覚障害になりやすいのかという点が大きな疑問点ですね。この点について、いわれていることは、新型コロナウィルスが、正常細胞表面にあるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体と結合して細胞内に入り増殖するということです。このACE2は鼻の上皮細胞で多く発現します。そのため新型コロナウィルスに感染すると鼻の中のにおいを感じる神経細胞やそのまわりの細胞がダメージを受け、においを感じるという機能を障害してしまうと考えられています。ですから嗅覚障害の原因は(2)嗅神経性嗅覚障害です。

  嗅覚が障害されるとキンモクセイのかおりもわからないのですね。
 私たちが毎日享受しているものは大切なものほどその大切さに気づいていないことが多いものです。なくしてはじめてその大切さに気づくこともあります。嗅覚もそのようなもののひとつといえます。においが何か変だなと思ったら、なるべく早く耳鼻咽喉科を受診しましょう。早く受診した方がよくなる割合も高くなります。

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