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Tea-break・・・矢部院長からのちょっといい話

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○ 2022年4月 花粉症と感染症について

 春まっさかりの4月が来ました。この明るい春の日の訪れを待ち望んでいた方もきっと多いことでしょう。皆様いかがおすごしでしょうか。先月で、もうことしも4分の1が終わりました。私はことしの目標がまだまだ達成されていなくて少々あせっています。

 4月上旬といいますと関東地方の平野部ではだいたいスギ花粉症が終わるころです。かわりにヒノキ花粉が増えてゆき、おおよそゴールデンウィークぐらいまでヒノキ花粉症が続きます。スギ花粉だけに反応する方はつらいのは4月上旬までですが、スギ花粉にもヒノキ花粉にも反応する方はもうひとがんばりが必要で、5月上旬ぐらいまでは症状は続きます。
そういう方は春になってお天気が良いと、ついおふとんを日に干したくなりますが、これはやめましょう。洗濯物も部屋干しがお勧めです。とにかく原因となる物質(抗原)を近づけないことです。ゴルフの好きな方、山登りが好きな方はゴルフ場や山では平野部と比べて気候が数週間遅れますのでまだまだスギ花粉が飛んでいるところもあります。そういう所へ出かける時は厳重な準備をしていって下さい。せっかくのゴルフや山登りがつらいものになってしまいます。
それから、スギの舌下免疫療法を行った、あるいは行っている方はスギ花粉の症状は大分緩和されたと思います。しかしスギ花粉の時期に症状が出なくても、4月上旬からのヒノキ花粉症の症状は残念ながら出ます。ヒノキ花粉症の方は準備をしておいて下さい。

 今回は、井上栄 氏の本、「感染症」(中公新書)をご紹介したいと思います。この方は公衆衛生を研究している方です。
「感染症」という本は、主に産業革命以後の、つまり最近の種々の感染症について書かれてあります。その中で私が最も感銘を受けたのはもちろん新型コロナウィルス感染症のくだりです。皆様もきっと疑問に思ってらしたと思いますが、なぜ日本人は欧米人に比べて新型コロナウィルスにかかりづらいのでしょうか。
今までもいろいろな説がいろいろな方から出されてきました。井上栄氏の説も1つの仮説にすぎませんが、日本語と他の言語との「喋り風圧」というものについて書かれています。井上氏の仮説というのは「日本語には有気音が無いので喋るとき口からの風圧が低く、飛沫のとぶ距離も短い」というものです。ここで出てきた「有気音」という言葉の意味ですが、有気音とはp・t・k(中国語ではさらにq・ch・c)の破裂音のあとに母音が来ると息が激しくはき出されることをいいます。これは英語や中国語には存在しますが、日本語にはありません。日本語では、p・t・kは無気音として発音されます。井上栄氏は、この仮説を証明するために喋り時の風圧を感度よく測定する装置を組み立て、日本語、英語、中国語の風圧を測定、比較しました。中には日本語-英語、日本語-中国語のバイリンガルの人も含まれています。すると日本語は英語や中国語に比べて喋り風圧が低くでました。これから井上栄氏は「有気音のない日本語では喋るときの風圧が低く、口から出る飛沫が遠くへ行かないのではないか。」と推測しています。

さらに井上氏は新型コロナウィルスの出現後、中国で「2メートル・ルール(他人と話すとき2メートルの距離をおく)」が提唱されたとの新聞報道がありましたが、日本語の世界では「1メートル・ルール」でよいだろうと述べておられます。
これは納得がゆく説です。ライブハウスやカラオケなどでは1メートル以下になるために日本でも感染することもあるでしょう。アルコールの入った食事の時はどうしても声が大きくなり、飛沫も飛びます。今までもきっと飛沫は飛んでいたと考えられますが、感染してすぐ困るような病原菌、病原ウィルスが含まれていなかっただけだと思います。
井上栄氏の意見はひとつの仮説ですが、とてもおもしろく、有力な仮説だと思います。

新型コロナウィルス感染症の感染が始まってからもう2年以上になりますが、いまだに勢いはおとろえていません。皆様も充分に感染症対策をして下さい。早くいつもの日常が戻ってくることを心より願っております。

 あたたかい春が訪れる前にもうひとがんばりですね。

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